東京ドームのブーイングと、坂本勇人。CSファースト第二戦4-1。

嫌いなものは、きゅうりと巨人でした。そんな人間がオレンジ一色に囲まれた東京ドームで見た、坂本勇人への大歓声、敗者へのブーイング、そして隣席からの「おめでとう」。勝った喜びだけでは片づかない、CSファースト第二戦。
村瀬秀信 2026.10.13
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CSファースト東京ドーム第二戦。

チケットなんて取れるわけないと思ってハナから諦めていたのに、ベイスターズファンのTさんからまさかのお誘いで、この試合を現地で観ることができた。

しかし、席に着いてびっくり。
一塁側の最前列。打席に左打者が入る度に抜かれる特等席というのも驚いたが、まわりを振り向いてみると見渡す限りのオレンジ色である。

左打席に入るたび、抜かれておりました。

左打席に入るたび、抜かれておりました。


ここは来てはいけない場所だったのか。オレンジの中に青がふたつだけの四面巨歌は、どこぞの国に置いてけぼりにされたような心細さである。私はTさんからもらったUMIOSの魚肉ソーセージを懐刀として祈る。東京ドームのCSなら分はこちらにある。なんだか、そんな気がするのだ。

東京ドームでのCSといえば、2016年の初出場となったあの年。生まれてはじめて見た半分青に染まった東京ドームの光景は今も鮮明に脳裏に貼りついている。ものすごく心強かった。それは当時の選手たちも同じことを言っていて、それまで苦手だった東京ドームがはじめて味方してくれたような、そんな空気だった。

東京ドームでの戦績は圧倒的に分が悪い。通算159勝271敗9分、勝率.370。勝ち越したシーズンは39年間で5回のみ。鬼門とはまさに東京ドームのことで、一勝もできなかった2012年を含め、大洋時代に8対0から岡本透と遠藤で逆転負けしたり、森中聖雄が松井秀喜に2回天井にぶつけられたり、2011年最終戦の代打長野の満塁サヨナラ身売りホームランやら、番長初采配の開幕戦で亀井にも代打サヨナラホームラン打たれたり。

屈辱的な敗戦を浴びる度に、いつも見える景色は同じ。地獄で回る風車のように、ぐるぐると回るオレンジのタオルに咳き込みながら、悪夢の中で、今にみておれ、今にみておれと呪詛の言葉を吐き続けてきたのだ。

ところが、CSになるとこの記憶が逆になる。
人間、何事もはじめての記憶というものが大事なのだ。なんせ、あの2016年の初出場以来、これで東京ドームでの巨人戦は3度対戦してすべて勝ち抜け。この日も勝って8勝3敗。嶺井の決勝打、田中健二朗の神殺し牽制、ロペス怒りのホームランなどで勝った2016年。梶原・森からはじまる同点劇に牧秀悟の決勝打で勝った2024年のファイナル最終戦と、脳裏を巡らせても“いい記憶”の方が勝ってしまう、ベイスターズ史上でも、非常に稀なシチュエーションを与えてくれる。

今年のCSは、2016年と比べるとスタンドの青の比率はあの時の半分だろう。だが一昨日の試合も、初回の度会先頭打者ホームランから、終始優勢のまま試合が進む。危なかったのは8回の二死1,2塁。代打坂本勇人の場面である。

あの時の、東京ドームの歓声はすごかった。これまでで一番じゃないかというぐらいの歓声に、キセキの大合唱。これまで坂本にやられた幾多の記憶が呼び起されそうになる。呼び起されるんじゃないかと思ったが、呼び起される前に、坂本はハマチの初球スライダーを打ち上げてくれた。
「ハマチ!最高だ!」
口を衝いて出てきた言葉とはウラハラ、妙な感情が湧き上がっていた。それは2016年CS最後の打者、阿部慎之助の描いた放物線がフェンス手前で失速したあの時と同じ。“こういう場面で必ず打つ打者”が打たなかった。それはなんとも言葉にしがたい、安堵とも、寂しさとも違う、畏怖の置き場所を失った戸惑いに似た感情である。

私は巨人が嫌いだった。

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